【海外起業録】カンボジアでの半年間から学んだ幸福論 〜BPO事業立ち上げ支援の経験から〜

カンボジア移住の背景

2014年、上海での事業が行き詰まりを見せていた時期でした。アベノミクスの影響で為替が大きく変動し、中国向けのコンテンツ配信事業は大きな打撃を受けていました。個人的な財布も完全に底をつき、身内からの借金で何とか事業を継続している状態でした。

そんな中、以前からの投資家から「カンボジアで新規事業の立ち上げ支援をしないか」という話をいただきました。月額1000ドル(約12万円)という決して高くない報酬でしたが、住居費も支給されることもあり、渡りに船として受けることにしました。

BPO事業立ち上げプロジェクト

プノンペンの中心部に拠点を構え、BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)事業の立ち上げに着手しました。主にデータ入力や集計作業などの業務を日本企業から受託する事業モデルです。

かつて中国の大連が一大アウトソーシング拠点でしたが、人件費高騰により、その役割は東南アジアにシフトしつつありました。カンボジアは人件費が安く、若い労働力も豊富で、新たなアウトソーシング拠点として期待されていました。

事業計画の立案と実務

ディレクターという立場で、事業計画の策定から携わりました。収支計画の作成、人材採用計画の立案、オフィス環境の整備など、スタートアップ特有の多岐にわたる業務に従事しました。

現地スタッフの給与水準は、エントリークラスで月200ドル、中堅クラスで500-600ドル、リーダークラスで1000ドル程度。日本企業向けに月額20万円程度でサービスを提供する計画を立てていました。

直面した課題と撤退の決断

しかし、プロジェクトは約3ヶ月で大きな壁に直面します。現地の経営者との価値観の違いが顕在化してきたのです。

特に決定的だったのは、週末に収支計画の見直しを依頼した際の出来事でした。経営者がビーチで遊んでいる写真をSNSに投稿し、約束の期日までに計画を提出しなかったのです。新規事業の立ち上げ期に、こうした姿勢では成功は見込めないと判断。投資家との協議の末、プロジェクトからの撤退を決断しました。

ASEAN地域の可能性を探る

カンボジア滞在中、ASEAN域内の自由な往来を活かし、周辺国への視察も積極的に行いました。タイ、ベトナム、ミャンマー、マレーシア、フィリピンなど、LCC(格安航空会社)を利用して50ドル程度で各国を訪問。

これらの視察を通じて、特にベトナム・ハノイの可能性に着目。後の株式会社グラタン設立につながる重要な布石となりました。

カンボジアから学んだ幸福論

カンボジアでの生活は、私の価値観を大きく変えました。確かに、インフラは未整備で、衛生環境も決して良いとは言えません。舗装されていない道路、路上の廃棄物、夜間に出没する不快な虫や小動物など、日本の生活水準からすれば驚くような環境でした。

しかし、一人当たり月収が200-250ドル程度という経済環境にもかかわらず、人々は幸福そうに暮らしていました。特に印象的だったのは、決して清潔とは言えない路地裏で、無邪気に遊ぶ子供たちの姿です。

東京のマンションで孤独にうつうつと暮らしていた自分を振り返ると、「幸福とは何か」という根本的な問いに直面せざるを得ませんでした。物質的な豊かさと幸福度は必ずしも比例しないという、頭では理解していたものの、実感を伴って理解できたのはこの経験があったからです。

現代の幸福論への示唆

この経験は、現在の私の農業への取り組みにも大きな影響を与えています。シンプルな暮らし、自然との調和、コミュニティとのつながりなど、カンボジアで目の当たりにした価値観は、持続可能な社会を考える上で重要な示唆を与えてくれます。

クメール王国の歴史的遺産や、メコン川沿いの伝統的な暮らしぶりからは、経済発展一辺倒ではない、バランスの取れた発展の可能性を感じました。人口500万人程度の国土に、まだまだ大きな発展の余地を残すカンボジアは、私にとって「東南アジア最後の秘境」以上の意味を持つ特別な場所となりました。

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