【ベトナム起業録】マイクロオフショア開発拠点の立ち上げから10年 〜700万円の資金調達から始まった新たな挑戦〜

ベトナムでの起業に至る経緯

2014年、中国市場での事業展開に限界を感じていた時期でした。当時の中国は既に人件費が上昇傾向にあり、言語や文化の壁も高く、新規参入の難しさを日々実感していました。そんな中で、新たなビジネスチャンスを模索する過程で、クラウドソーシングサイトを活用した中国向けゲームのローカライズ案件の出稿を試みました。

この出稿が、思わぬ展開を生むことになります。日本国内からの応募は予想通りでしたが、驚いたことにベトナムから3-4社もの提案が届いたのです。提案内容を精査すると、日本語でのコミュニケーションが可能で、技術力も一定水準を満たしていることが分かりました。特に注目したのが、提示された価格帯です。日本の同様のサービスと比較して、大幅に競争力のある価格設定でした。

慎重を期して、まず複数の会社に小規模な案件を発注し、その対応や成果物の品質を確認することにしました。結果は上々で、特にコミュニケーションの円滑さには目を見張るものがありました。これを受けて、実際にハノイとホーチミンを訪問し、候補となる4社との直接対話を行いました。

マイクロオフショアという新しい挑戦

当時のオフショア開発市場は、大手IT企業による大規模な開発センターの設立が主流でした。数百人規模のエンジニアを抱え、大規模プロジェクトを遂行するモデルが一般的でした。しかし、中小企業や個人事業主にとって、そのような大規模投資は現実的ではありません。

そこで着目したのが、月額20万円程度の小規模案件でも柔軟に対応できる「マイクロオフショア」という新しいビジネスモデルです。これは、従来のオフショア開発の概念を覆すものでした。大規模な初期投資を必要とせず、必要に応じて柔軟にリソースを調整できる点が特徴です。

700万円の資金調達と起業

新会社設立に向けて、まず資金調達を行いました。経済的に余裕のある知人から合計600万円を調達し、これに自己資金100万円を加えた700万円を元手に、株式会社グラタンを設立しました。この資金は、オフィス開設費用、初期の人件費、マーケティング費用などに充当されました。

資金調達にあたっては、事業計画の綿密な策定と、投資家との信頼関係構築に注力しました。特に、マイクロオフショアという新しいビジネスモデルの可能性と、ベトナム市場の将来性について丁寧な説明を心がけました。

ベトナムビジネスの特徴と課題

ベトナムでのビジネス展開には、明確な特徴と課題がありました。最も大きな利点は人件費で、当時の日本と比較して4分の1程度でした。これは大きな競争優位性となりました。

しかし、コミュニケーションの課題や仕様理解の齟齬により、生産性は日本の7割程度に留まりました。言語の壁はもちろんですが、ビジネス習慣の違いや、プロジェクトマネジメントの方法論の違いなども影響しました。結果として、実質的なコストメリットは当初想定していた4分の1ではなく、約半分程度となりました。

文化的な親和性

一方で、ベトナムと日本には多くの文化的共通点があることも分かりました。特に食文化における共通点は、関係構築の重要な要素となりました。また、人との関係性を重視する価値観も、ビジネスを進める上で大きな強みとなりました。

例えば、約束を重んじる姿勢や、長期的な関係性を重視する考え方は、日本のビジネス文化と非常に親和性が高いものでした。これにより、信頼関係の構築がスムーズに進みました。

10年間の変遷と現在

この10年間で、ビジネス環境は大きく変化しました。円安の進行やベトナムの経済発展に伴う人件費高騰により、当初のコストメリットは3割程度まで縮小しています。しかし、これは必ずしもネガティブな変化ではありません。

機械翻訳やAIの発展により、言語の壁は大きく低くなりました。また、ベトナム人エンジニアの経験値向上により、生産性は著しく改善しています。特に、日本企業との取引経験を積んだエンジニアが増えたことで、仕様理解や品質管理の面で大きな進歩が見られます。

現地での生活と文化体験

私自身も1年間ほどベトナムに滞在し、現地の生活を体験しました。プール付きの3LDKマンションを月額600ドルで借り、快適な生活を送ることができました。この経験は、ビジネスパートナーとの関係構築に大きく貢献しました。

現地のパートナー企業のオフィスに通い、日々の業務を共にすることで、より深い相互理解が生まれました。また、現地スタッフとの食事会や休日の交流を通じて、ビジネスを超えた人間関係を築くことができました。

ベトナムビジネスから学んだこと

10年間のベトナムビジネスを通じて、最も印象に残っているのはアジア特有の義理堅さです。最初の顧客という関係を、10年経った今でも大切にしてくれている姿勢には、深い感銘を受けています。

この経験から、ビジネスにおける長期的な関係性の重要性を再認識しました。短期的な利益追求ではなく、相互信頼に基づく持続可能なパートナーシップの構築が、真の成功につながるという教訓を得ました。

※この記事はポッドキャスト音声データを元にClaudeが書き起こし、編集したものです。

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