気球に乗れなかった話と、うちのトマト

水戸を抜けて海側へ降りていく道を走っています。運転しているのは友人で、僕は助手席です。前に書いた旅の続きというか、その途中の話なんですよね。豪雨で畑に出られないのが確定した瞬間に差し込んだ、あの2泊3日です。

で、今回は車の中で録音を回させてもらいました。断りを入れて、普通に喋っているところをそのまま録っています。目的はひとつで、方向性のまったくない雑談をAIに突っ込んだらどうなるのかを見たかっただけです。ひとり喋りの録音は前からやっていて、畑で手が土だらけのまま今日はここまでやった、と喋って放り込んでおけば、あとでちゃんと記録の形になります。ただあれは、こちらに話す筋道が最初からあるんですよね。二人で喋って、そこにカーナビが「100メートル先、直進してランプに進入してください」と割り込んでくる音声がどうなるのかは、やってみないとわかりません。

結果を先に言うと、カーナビの声まで律儀に文字になっていました。あと、誰がどっちの発言かをAIに判別させるのに半日かかりました。その話はまた別途書きます。

気球は、飛ばない日ほど高い

走っていると、道が荒れているんですよ。県庁所在地なのに舗装がぼこぼこで、面積が広いわりに経済規模が小さいから維持にお金が回らないんだろう、と二人で勝手な理屈をこねていました。街道なのでトラックも多いです。電気自動車はエンジン音がないぶん、路面の音がよく聞こえるんですよね。

道が悪いといえばデトロイトだな、と僕が20年以上前の話を持ち出しました。大学の頃にアメリカでライブをやっていて、自動車の街のはずなのに道がひどかったんですよ。当時はまだGMの本社もあったんですけどね。まあ君は海外で運転することもないでしょうけど、みたいなことを付け足したら、いや、この間カッパドキアでレンタカー借りて運転しましたよ、と返ってきました。完全にこちらの負けです。

トルコはどうでした、と聞いたら、あそこはゼルダの大地だから、と。黄色い岩が地面からぼこぼこ生えていて、道も舗装されていないところが多いそうです。飯もうまかったそうです。オリエントと西が混ざった位置が、そのまま景色にも料理にも出ているんですね。めちゃくちゃ行きたいです。

で、あそこといえば気球じゃないですか。彼は結局、乗らなかったそうです。高すぎたから。家族のひとりが乗りたがっていたのに、値段を見て諦めたそうです。ただ、その高くなった経緯のほうが面白くて。

予約サイトで、5人で5万円ほど押さえてあったんですよ。それが当日になって、向こうからキャンセルされる。天候かな、と思うじゃないですか。ところが同じ枠がまだ普通に取れる。値段だけが上がっている。見間違いかと思った、と言っていました。要するに、5人を1人1万円で乗せるより、別の客に1人2、3万円で売ったほうがいいよね、という判断です。だから先に押さえていた側を、当日になってでも切ってくるわけです。

現地で相談したら、安いチケットではよくあることだと言われたそうです。気球はそもそも風が悪ければ飛びません。飛べたらラッキーくらいの乗り物で、半分は飛んでいるかどうかもわからないくらいらしいです。すると2日飛ばない日が続くだけで、値段はどんどん上がっていくわけです。飛べなかった人が翌日に積み上がるのに、枠のほうは増えないので。しかも旅行者には帰る日があります。今日を逃したら次がない人は、高くても買うしかありません。なるほどなあ、と思って聞いていました。

で、うちのトマトの話なんですけど

その少し前に、トマト最近高いよね、と彼が言っていたんですよね。

うちはトマトを50株ほど作って、きれいに失敗しています。正確には、失敗したというより、僕のやり方じゃ厳しいなというのを確認した、という感じです。ハウスがないので。虫、鳥、天候。ちゃんと商売にしている人はみんなハウスに入れているわけで、露地でやるというのはその全部を引き受けるということなんですが、引き受けきれませんでした。

で、気球の話を聞きながら、これうちのトマトと同じだな、とずっと思っていたんですよ。トマトが高いのは誰かがぼったくっているからではなくて、その年に穫れなかったからです。穫れないほど高くなる。飛ばないほど高くなる。同じ形をしています。

ただ、作り手の側から見ると、これはあんまり嬉しい対称ではないんですよね。高く売れる年と、自分のところに実が無い年が、だいたい同じ年に来るということなので。相場が上がって喜んでいるのは、ちゃんと穫れた人だけです。

そこで効いてくるのがハウスであり、時期をずらす工夫であり、要するに供給を天気から少しでも引き剥がす手立てなんだと思います。気球の会社が天気に対して打てる手は値段しかありません。畑のほうは、値段をいじる前にやれることがもう少しあります。そう考えるとハウスって設備投資の話じゃなくて値付けの話だな、と助手席で考えていました。まあ、だからといって明日建てられるものでもないんですけど。

そのあと看板が出てきて、魚の天国と書いて坂天パークというらしいんですよ。道の駅というとどちらかというと山の属性という印象があるので、魚を掲げているのは珍しいですねと言い合いました。その少し前に口コミで見つけた食堂に寄ったら、水曜定休だったのか何もやっていなくて、平日の中途半端な時間だしまあこうなりますよね、という流れだったんですけど。じゃあ道の駅でも寄っていくか、というところで録音は終わっています。

雑談を文字起こしさせる実験のつもりが、聞き返してみたら僕はほとんど喋っていなくて、人の旅行の話を最初から最後まで自分の畑の話として聞いていました。しばらくこの手の録音は回してみます。カーナビの声も込みで。

※この記事は車内で録音した雑談音声を元に、Claudeが書き起こし、編集したものです。

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